第4回のスピーカーは南アフリカ、ケープタウンにて、世界的ガーデナーLeon Kluge氏のもとでインターンシップ中の谷向俊樹さんです。
#4 Summary
スピーカー:谷向俊樹
ライター:中島悠輔
●ランドスケープを学ぶきっかけ
家族との出会い、庭師との出会い、世界を旅をする中での植物との出会い。
●なぜ南アフリカでインターン
Leon Kluge氏の下で学びたいという強い思い。そして、世界的に珍しいケープタウン周辺の植物帯に惹かれた。来て見ると、アパルトヘイトの文化が未だに色濃く残る街に驚くことや考えさせられることが多い。
●コロナとケープタウン
毎日、約5000人がコロナウイルスに感染している一方、死者は少ない。それはタウンシップと呼ばれるアパルトヘイトの残るエリアが高密で感染が広がっている一方、若い世代の人口が多いため死者が少ないのでは、と言われている。
●谷向さんよりメッセージ アパルトヘイトの文化が未だに残るケープタウンで強く生きる同僚エリックの「植物植えるの好きなんだ。だって命を繋げてる気持ちになるから。」という言葉に心打たれた。
夢は世界一のガーデンデザイナーになる事。
今日の内容
谷向さんについて
ランドスケープに興味を持ったきっかけ
南アでのインターンまでの道のり
南アフリカ、ケープタウンのランドスケープ
Leon氏の下でのインターン活動について
コロナと南アフリカ
谷向さんからのメッセージ
質疑応答
谷向さんこんな人
26歳
大阪府池田市出身(日本4大植木の産地)
実家が植木屋で自分で4代目
関西学院大学理工学部物理学科宇宙物理学専攻、2016年卒
外構造園会社にて、営業設計
南アフリカ、ケープタウンにて世界的ガーデナーLeon Kluge氏のもとでインターンシップ中
ランドスケープに興味を持ったきっかけ
理由1
家族との出会い(実家が植木屋をしており、畑にいったり家業を手伝うことが多かった。) 祖父祖母も現役。
理由2
かっこいい庭師に出会った
兵庫で庭師をされている方と、父が知り合いで、繋がった。
三田市のお菓子屋さんの庭の設計をやっていて、石積みを手伝わせてもらった。一度やってみなと言われたが上手くいかず、崩されて庭師さんが積み直したものが安定感があり美しかった。
同じ石でもこんなに違うということにハッとした。
大学時代のバイトを経て、庭、造園の分野に入っていった。
理由3
物理学科の友人は全く異なる分野に就職していたが、その頃に一人旅をし、発見があった。
東南アジアに行った際に、世界中に様々な異なる植物があり、それらを組み合わせて庭ができたら良いなと思っていた。
南アでのインターンまでの道のり
社会人時代
2016年より3年間勤務
上司に恵まれた。朝に勉強会(パースやスケッチの練習、見積もりについてなど)を実施した。仕事帰りも勉強会をすることがあった。
休日は発注している業者さんの庭師のもとでお手伝いをしていた。
「現場がわからないと図面も描けないだろ」 と、現場を手伝わせてもらった事が非常に勉強になった。
「何もできないことはないんやで」
狭い敷地に大きな樹木を植えるというプロジェクトでアイデアを練って実現させることに感動。
今でも連絡を取るほど、会社自体はとても好きだが、やりたいことを貫くため退社。
なぜ南アフリカ
Leon Kluge氏のAFRICAN THUNDERというプロジェクトを見て、衝撃を受け、この人のもとで働きたいと感じた。
自分が就職活動をしていた際に、長崎ハウステンボスでやっていたガーデンショーにも出展しており、名前を知っていたことも影響している。
南アフリカ、ケープタウンのランドスケープ
ケープタウンという都市とアパルトヘイトの歴史
海と山に囲まれている街。ネットで検索すると美しい街並みが出てくるが、街を少し出るとタウンシップと呼ばれるエリアがある。アパルトヘイトの制度の名残が残るエリアで、あまり綺麗ではない場所もある。 ボカープ(奴隷として連れてこられたアジア系の人が住んでいるエリア)奴隷から解放された喜びを表現するためにパステルカラーに塗装されたと言われている。 何回もドアが叩く音がし、ドアを開けると物乞いの人がご飯を求めている。 1日に10回以上もそういう事があり、彼らに渡すための食糧が備蓄されているのが日常。 日本で自分が経験したことのない慣習で驚いた。
ケープタウンの景色
ボカープの風景
世界的に珍しいケープタウンの植生帯
テーブルマウンテン(台地のような形)はハイキングスポットとなっており、道中に様々な植物を見る事ができる。レストランやロープウェイも。 ケープタウンの植生帯は、世界の植生帯を6つに分けた際の1つになっており、非常に珍しい植物(8000種類)が狭いエリアに密集している。山を登るだけで非常に様々な植物を見る事ができる。
ケープタウン周辺の植物群をFynbosと呼ぶ。一番有名なのがプロテア。 ケープタウンの花屋でアルバイトをしたことも。駅近なので、白人系のスーツを着た人が買いに来る。
テーブルマウンテンと植物
Leon氏の下でのインターン活動について
ワイナリーのガーデンプロジェクトの参加
フランシュフックというエリアがワインの産地になっており、Burgundy Bourgogne Wineryというワイナリーのガーデンなどの設計をしている。 最近は配管工事や石工事を任されている。 あまり機械を使わずに人力でやる事が多い。 人件費が安いので、機械を使わなくても良い。 南アフリカ周辺のアフリカの国々からの移民がお金を稼ぎに来ている。タウンシップに住んでいる彼らと一緒に働いている。 南アフリカ人は、そこまで職が欲しいという風ではないので、あまり働く姿勢が見受けられない。 今はインターンだが、働く意識が薄い彼らに指示する立場になっている。
ケープタウンのワイナリーの風景
同僚と働く様子
Babylonstorenのプロジェクトもやっている。 ワイナリー内のガラスハウス(スパイスの植物園)にエアプランツを装飾するなどのプロジェクト。
スパイスハウスのプロジェクト
Youtubeにて、インターンの詳しい活動を発信しているので、ぜひ確認して欲しい。
コロナと南アフリカ
毎日5000人程の感染者(昨日は1万人)、50人程度の死者が出ている。 政府の対応は早く3/27よりロックダウン。 ロックダウンは5段階のレベルに設定され、6/1からはレベル3(ほとんどの仕事は復帰。ジム・レストランは閉鎖中)これは、経済が回らないからレベルを落としたと考えられる。 タウンシップは家が密集していて、感染が起きているのではないかと言われている。 死者が少ないのは年齢層が低く、高齢者層が少ないからではないかと考えられている。
谷向さんからのメッセージ
アパルトヘイトの歴史が未だに続く南アの中で生きるランドスケーパーJanuary、Februaryなど月の名前をつけられた黒人男性もいる(奴隷時代に人を区別する為だけにつけられた名前) レストランでは食べている人は白人、働いている人は黒人など。 同僚のエリックさん 「植物植えるの好きなんだ。だって命を繋げてる気持ちになるから。」 タウンシップ出身で、今ではしっかり仕事をして、家族を養っている。ハードな経験をもろともせず非常にピュアに頑張っている彼を見て、もっと自分も頑張らないと感動した。
ガーデンデザイナーという仕事はものづくりをする楽しい仕事。
図面を書くのも、それを実際の空間におこすのもとても楽しく、最高の仕事だなと感じている。
夢は世界一のガーデンデザイナーになる事。
この夢に向かって頑張っていきたいなと思っている。
質疑応答
Q. LEONさんとはどういう人(Fさん) A. LEONさんは繊細な方というイメージ。 一つ一つのことに気をつけるし、優しいけど、厳しさも感じる。 毎日仕事をしている。 基本的には同じようにインターンをしている人は少ない。 各現場で働いている労働者の方がいて、その方達に指示をするといった仕事をしている。 海外で仕事をする事が多いので、と一度断られたが、自分ができることをたくさんアピールしてインターンを受け入れてもらった。
Q. 庭のデザインの際に、どういったことをデザインの参考にしているかを教えて頂きたいです。 ランドスケープアーキテクチャの分野だと、地域の歴史や生態系といった文脈からデザインを決めていく事が多いように感じますが、違いがあるのか、など教えて頂きたいです。(Nさん) A. お客さんの要望が第一。どんな事が欲しい、どういう性格の方か、好きなものをヒアリングして、レオンさんは経験・旅をする事が大事。ものの構造についても学ぶことも多いし、経験が大事なのでは。 Q. 高野ランドスケープの高野文章さんがIFLAで南アフリカに行った事があり、会場の一番前は白人ばかりで、後方に黒人学生が聴講していた、ヨーロッパ風のガーデンに関するプレゼンが多かったというお話をしていて印象的だった。 ナーサリーで植物を育てていたが、プロジェクト毎に植物を集めて育てるのは当たり前なのか?(Tさん) A. 今回のプロジェクトは時間もあり、現場も広い、珍しい植物の場合は自分で育てる必要があるので、自分たちで育てる。小さい個人庭ではナーサリーで買ったり、自分のナーサリーの他のプロジェクトから移したりする。 Q. 日本と南アフリカの庭づくりの違いはありますか? (Iさん) A. やっている事自体は同じだが、日本だと指示者がいて労働者がいるというピラミッド構造があまりないが、南アフリカではそれがあり、その違いが大きい。 白人系の人が庭を注文する事が多いのでヨーロッパ風の庭の注文が多い。
Q. ワインはかなり環境に配慮した作り方をしていたりしますが、規制や取り組みで進んでいることはありますか?(Iさん) A. ワインについての違いは日本との違いはあまりないように思う。 虫の被害も少ない。 ピノタージュが美味しい。ピノノワール、シャルドネも美味しい。 Q. 南アフリカにはマーケットと呼ばれる雑貨や食品、ワイン・ビール販売をしつつ、音楽や景色、雰囲気を楽しむ独特な空間がありますが、ランドスケープデザイナーは関わっているのでしょうか?(Iさん)
A. マーケットについて 小さい街のイベントにチャリティで庭を作るといったプロジェクトに参加する事もあった。 Q. ランドスケープデザインのベースにはオランダやイギリスの影響はあるのでしょうか。ボスはどこでデザインを学んだのでしょうか。 現地の方々の庭や屋外空間の使い方で印象的なことはありますか。(Tさん) A. Leonさんはイスラエルの大学で勉強していた。 南アフリカの近くの島の輸出入の会社で働いた後に、実家のナーサリーで働き、30歳からデザインをやり始めた。 Q. 家の庭先で花を育てるなどの文化はあるのか。街の中の文化の違いは(Tさん) A. 高級エリアに行くと塀で囲み、家を守るという文化。 庭先で花を育てるということはあまり見かけないが、高級エリアでは多少あるかもしれない。 Q. 手描きの図面やスケッチでのプレゼンが出てきたり配管という言葉があったりと、施行に加えて様々なプロセスが見受けられました。谷向さんがインターンされているLeonさんの会社では、その図面を描くところから実際のお庭が完成するまで全てのプロセスを行うのでしょうか。その場合、社内でそれぞれの役職があるのか大体みんなが色々なプロセスに携わるのか気になりました!Leonさんとインターンの2人はどういった役割をしているのか(Mさん) A. Leonさんがメインで考え、同僚がパースなどを作っている。配管などは自分(谷向さん)が。 現場に基本、同僚は出て、Leonさんは忙しいので時々チェックに来る。 Q. 地元ガーデンデザイナーは都市デザインやパブリックスペースのデザインに関わる仕事も行っていますか?谷向さんの他にもアフリカ外からランドスケープデザイン関連の仕事・勉強にくる方はどれくらいいらっしゃいますか?(Kさん) A. ランドスケープアーキテクトは別の会社が請け負っている。 ケープタウンの大学にもランドスケープのコースがあり、そこで学んでいる学生が多い。ケープタウン内の事務所もあり、彼らもプロジェクトをやることも多い。 ヨーロッパで学び、南アフリカに帰って仕事をする人が多い印象を受けている。IFLAでは代表の方とお話しする事が多いが、実情はわからない。(Fさん) Q. 実際、退職後Leon Klugeさんのもとでインターンシップを受ける為にどう行動をしていきましたか?もし教えて頂けるならお伺いしたいです。もしダメだったらという代替プランは考えていたのか?(Mさん) A. 少しは考えていたが、絶対に行くと固く決意していた。 無理でも海外で庭に関する仕事をするとかは考えていたが、絶対に行くことと決めていた。 過去のプロジェクトの写真をまとめたり、ボスの文章を読んだり、SNSを見たり、英語を勉強して、話す内容をまとめたりしていた。 Q. 今後、日本ではどういう活動をしたいのか。 (Kさん)
A.
少しは考えていたが、絶対に行くと固く決意していた。
無理でも海外で庭に関する仕事をするとかは考えていたが、絶対に行くことと決めていた。
過去のプロジェクトの写真をまとめたり、ボスの文章を読んだり、SNSを見たり、英語を勉強して、話す内容をまとめたりしていた。
Q. 住む環境として、日本とは全然違うと思うのですが、南アフリカの日常生活の中でびっくりしたこと、面白いと思うことがあったら知りたいです!地元の方との交流もたくさんしていますか? また、イギリスの方と話していて、南アフリカってホリデイシーズンの人気のお出かけ先だというのを知ったのですが、街の雰囲気は一年中観光客が多いんですか?そういう方向けのランドスケープのお仕事が多いのですか?(Yさん)
A.
観光客が多い。自然もあり、都会的な場所もあり、車を走らせるとワイナリーがあり、良い場所だと思う。ビーチも。
治安が悪いので、外でピクニックをするといったことは無い。
ケープタウンの街中は治安が悪いので、外に出歩くということは少ない。
街中でアフリカっぽいダンスをしていたり、音楽が街中で流れていたり。
ホテルの庭などでランドスケープのプロジェクトが多い。
ウォーターフロントは都会的。
Q. ヨーロッパの文化に覆い尽くされてアフリカの文化はあまり見受けられない場所なのか?(Yさん)
A.
グラフィティがあったり、街中を歩いている人はカラフルな格好をしていたり、都会のアフリカという感じ。
Q. 作庭の作業についての話だったが、日本庭園の作庭を修行しているが、南アフリカ特有の伝統的な技法はあるのか?(Iさん)
A.
日本ほどの技法はあまり無いと思う。近くの山や現場の石を使ってという事が特徴的。
Q. 現場で手本を見せて作業員にやらせるということはあまりしないのか?(Tさん)
A.
基本的な流れの1つではある。経験がある作業員とは相談しながらやっている。丁張りをすることも場合によってはある。
Q. 南アフリカには日本庭園はあるのか?(Kさん)
A.
公園に灯籠がポツンとある風景を見た事がある。ボスのクライアントで日本庭園を作る可能性もある。
Q. 日本人との交流はあるのか?日々の食事も気になる(Fさん)
A.
最近は同僚が作ってくれる事が多い。主食がトウモロコシの粉で作るパンのようなものが多い。
日本人会があり、イベントに参加することもある。
南ア人や白人の方と結婚した方や駐在員など合わせて200人程日本人がいる。
Q. アメリカともイギリスとも違うランドスケープが広がっていて、興味深かった。テーブルマウンテンの頂上にはどういう植生があるのか?(Aさん)
A.
森はあまりなく、岩肌が見えている山。その間にブッシュがある。プロテアや他の植物が広がるランドスケープ。夏場は乾季、冬場が雨季。乾燥している。
Q. クライアントは富裕層が多いのだと話から分かったが、公共の仕事はあるのか?イリノイの都市計画分野では白人中心で自分たちのコミュニティの改善のプロジェクトが多いが、スラムエリアのプロジェクトには目を向けられていない。南アはどうか?(Mさん)
A.
ワイナリーの敷地内で働いて状況はよくわからないが、街中で植物を使ったプロジェクトと思う。
オークやアガヴェなど街路樹として使われている。
アガヴェは雑草というイメージ。
ライター中島より
南アフリカの豊かな自然環境にとても感動しました。素敵な街ですね。
また、人種差別の歴史が未だに尾を引いているということに驚きましたが、その中で力強く生きている人々の考え方に感動しました。
谷向さんのお話を伺い、土や石を触ることの大切さを改めて感じました。大学にいるとどうしてもアイデアを提案することで終わってしまう事が多いですが、実際に物を作る事で、デザインが実現可能なのかが分かったり、構造やデザインについてより実用的な知識が身についたりするように思います。私も事務所で工事のお手伝いをさせて頂いたことがありますが、そこで得られた経験から、ポスターの美しさも大事ですが、提案の実現可能性について、よりストイックに考えるようになりました。U2Wや「ランドスケープを学びたい人の井戸端会議」では海外大学でランドスケープを学んでいる方のお話を伺うことも多いですが、実務をやられている方のお話もどんどん伺えたら嬉しいです。
中島悠輔
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